『貧乏物語』五の一 以上で私は…

現代語訳

中編 どうして多くの人が貧乏しているのか

以上で私はこの物語の上編を終え、これより中編に入る。冬も近く、虫の声が忙しい夕べだ。

今日の社会が、貧乏という大病に冒されていることを明らかにするのが、上編の主眼だった。中編の目的は、この大病の根本原因がどこにあるかを明らかにし、だんだんとこの物語全体の目玉、そして下編の主題である、貧乏根治策に入る準備をすることにある。

ロンドン大学教授エドウィン・キャナン氏は、その著『富』の序文にこう書いた。
「経済学の真の根本問題は、2つである。1つは、我々すべてが、全体として、今日のようないい暮らし――そう言って悪ければ悪い暮らしでもいいが――をしているのは、なぜかとということだ。もう1つは、我々のうちある者が、平均よりはるかにいい暮らしをしており、他ははるかに悪い暮らしをしているのはなぜかということだ*。」
* Edwin Cannan, Wealth, 1915.

これは、短い言葉に経済学のなんたるかを示し切っている。今私はこの2つの問題のうち、後者を説明するため、少しばかり前者の話をしないわけにはいかないと感じている。だから諸君、どうか私に、しばらく人間ではなく蟻の社会の話をさせてもらいたい。

蟻の一種に、葉切り蟻というのがいて、熱帯地方で繁殖している。フォルソムの『昆虫学』※1を見てみるとこうある。

「この種は大変な多数で生活し、数時間で樹木の枝を丸裸にしてしまうから、園芸家はこの恐るべき蟻に全くお手上げだ。実際、この蟻が多い地方では、オレンジ、コーヒー、マンゴー、その他の植物の栽培が不可能だという。
この蟻は地下きわめて深く巣を掘って、掘った土で蟻塚を造る。時に直径90~120cmに及ぶことがある。そしてあちこちの方向に、巣から付近の植物に通じる道路を設ける。ベルト氏はしばしばこの蟻が、巣より800m離れた場所で働いているのを目撃したという。
この蟻が攻撃するのは、主として植物の葉だが、その他花、果実、種子をも害する。うんぬん」(三宅、内田両学士訳本、539ページ以下)。

さらにブラジルで特にこの蟻について研究している、ベーツ氏が書いたものを読むとこうある。

「一つ一つの蟻は、木の葉の表に止まっていて、その鋭いはさみのような口で、木の葉の上方をほぼ半円形に切っていき、そうしてその縁を口にくわえ、パッと急に引いて、その片きれをもぎ取る。場合によると、こうして切り取った葉を、地面に落とす。そうするとそれがだんだん積まれていったのを、他の蟻が来て、そばから次々に持ち運ぶ。しかし普通には、その切り取った葉を、めいめいで巣に運んでいく。そうしていずれも皆同じ道を通るから、彼らの通る道はじきに滑らかに平たくなって、草原の中を馬車が通った跡のようになる。」

このようにこの蟻は、木の葉を切っては巣に持ち帰るので、それで葉切り蟻と名づけられている。しかし彼らはなんのために、こんな労働をしているのか。辛抱してその話も聞いてください※2
(10月4日)

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訳注

※1)「昆虫学」:J・W・フォルソムはアメリカの昆虫学者であるらしい。著作権の問題から、国会図書館では館内閲覧のみ。残念! ただし原書はこちらで見ることが出来る。

※2)聞いてください:原文はほぼ擬古文調だが、ここは口語になっている。

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