『貧乏物語』三の七 英国ブラッドフォード…

現代語訳

英国ブラッドフォード市で、貧民の児童に給食を試験的にやってみたことは、私が前回に述べた通りだが、今その成績ははたしてどうだったかと言うと、当時の記録によれば、これらの児童は給食を受けると、にわかにその顔色が輝いてきて、その態度は快活になり、学業もこれに応じて進歩を示したという。

こうした事実は数字には示せないが、誰もが認めざるを得なかったのは、児童の体重が著しく増加した点で、これを図に示せば次の通り。

食事の給与と体重増加率の相関図

食事の給与と体重増加率の相関図

実験中最初の4週間は、給食を受けた児童の体重は、1週間平均6オンスの増加を示した。特に最初の1週間では、その増加が最も急激で、平均1ポンド4オンスだった。実験期間を通じて、給食を受けた児童の体重は、平均2ポンド8オンス増えたが、受けなかった者の体重は、1ポンド4オンス増えたに過ぎない。
(1オンスは28.35g、1ポンド=16オンスで、453.59gに当たる)※1

図表中の太線は、受験児童40名の体重増加で、体重の単位はポンド。また細線は、給食を受けなかった児童69名の、体重増加の平均。それが直線になっているのは、各週別の変動ではなく、全期間の平均率を表わしたため。この注意だけで、図表の意義は一目瞭然だから、その詳細は省く。要するに実験の結果、多数貧民の児童は、食物さえ改善してやれば、たとえその他の生活状態は元のままでも、肉体と精神の発育上充分の効果をあげうることが、明瞭に立証された。

そこでこのブラッドフォード市では、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく、いよいよ大規模に給食を開始することになった。こうして今日同市の制度は、この種の経営中、世界最高と称されている。

その制度の概要を述べてみると、通学児童は誰でも自由に給食を受けられるが、無料で受ける場合は、委員がその児童の家庭状態を調査し、その事情に応じて無料の給食を許し、あるいは実費の一部から全部を納付させる。児童はその社会階級を問わず、すべていっしょに同じ食堂で食事を取る。無料で受ける者も、実費の一部または全部を負担する者も、すべてその間に取り扱いの差別がない。

従って児童自身は、互いに全くそうした事情を知らない。食事の調理には、栄養学上専門の知識がある者が監督に当たり、助手5人がその下について、もっぱら調理に従事する。炊事場には最新の設備を備え、1日に1万人分の食事を供給できる。その創設費約4万円※2、経常費は1908年より09年にわたる1会計年度で、食料を除き、役員の手当、設備の維持、修繕費等を合算して8万円弱である。

そして同年度に供給された食事は約百万、そのうち4分の1は朝飯である。1年を通じて食事を取った児童数の最も多い日は5,500人で、1年間の平均は1日2,700人になっている。そのうち食費の全額または一部を納める者は、1日平均240人である。

以上がブラッドフォード市での給食事業の概要だが、実はこれは一例に過ぎない。このような事業は今日、英国の諸地方で実行され始めている。現に文部省の年報によれば、食事公給条例の通過した翌年度の終わりには、このような事業を公営したのは全国で41カ所、次の年度には81カ所、その次の年度には96カ所、さらにその次の、1910年から11年にわたる年度には、123カ所になっている。

これで、英国でのこの種の経営の大まかな様子がわかるだろう。(以上述べた英国の事情はもちろん、その他欧米諸国での小学児童給食問題の由来と現状については、ブライアント氏『校営食事*』と、金井博士在職二十五年記念論文集『最近社会政策』中に収めてある拙稿、「小学児童食事公給問題」を参照されたい)。
* Bryant, School Feeding, 1913.(前出)
(10月1日)

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訳注

※1)原文は「一オンスはわが七匁五五九、一ポンドは十六オンスにして百二十匁余に当たる」。尺貫法で言われても現代日本人にはわからないと想像してグラムに直した。訳者にも尺貫法はわからない。

※2)4万円:それが現在のいくらにあたるかというのは、非常に難しい。大まかな目安として、金価格で換算してみる。
1917年→1g:1.36円
2012年→1g:4,321円(3,177倍)
∴4万円=1億2,708万円
金価格参照:http://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php

経常費が食材費除いて当時8万円弱で、平均2,700人に給食しているのだから、現在の物価では児童1人につき、年に9.4万円かかることになる。だいたいこんなものではないだろうか。

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