『貧乏物語』十二の六 私は議論を…

現代語訳

私は議論を公平にするために、もし話を厳密にすれば、貧乏人でも無駄に物を消費する場合の話を書いた。しかしどうせ余裕のない彼らの事だから、無駄をしたにせよ貧乏人の無駄はたかが知れたものだ。そこで私は再び金持ちの方に向いて、――あまりくどいので読んで下さる方もあるまいが――もう少し倹約の話を続ける。

むかし孔子は、財産と身分は人が欲しがるものだとおっしゃったが、黄金万能の今日の時勢では、金持ちすなわち偉い人、だ。だから人の欲しがるものを二つ挙げてみろと言われたら、今の世の中では、むしろ財産ともう一つは健康と言うのが適当だ。

英米両国では富のことを Wealth と言い、健康のことを Health と言う。まことにこのWとHのついた二個の ealth こそ、万人の欲望の集中点で、誰も彼も金持ちになって、長生きをしたいと思い煩っているわけだ。

そこで普通の人は、財産は太るほど良く、身体も肥るほど良いように思っている。しかしそれは大きな間違いで、財産でも体でも、あまり太り過ぎるとろくな事はない。

貧乏な上に、恐ろしくやせている私がこんな事をいうと、それこそ本当のやせがまんだと笑う方もあろうが、もしそうおっしゃるなら、仕方がないから面倒でも統計表を掲げて、私の議論の証拠にする。

まず次に挙げる表は、43の米国生命保険会社が、1885年から1908年までの間、総人員18万6579人について調べた結果で、平均以上の体重がある者の死亡率を表わしたものだ*。これを見ると、太った人の成績は思いのほかよくない。
* Fisher, How to Live, 1915, p. 213.

貧乏物語12-6-1

この表を見ると、平均より少しでも肥えていると、45歳以上は例外なく、平均体重の人に比べて全て死亡率が多い。特に平均より25ポンド(1ポンドは約450g※)以上太っていると、20歳以上はことごとく死亡率が多い。例えば平均体重より50ポンド以上太っていると、40歳から44歳の間で、その死亡者数は平均数を超えること、100人につき75人の多数に上っている。

これと比べたら、やせ過ぎている方が、むしろはるかに安全だ。試しに次の表を見るといい。これは前と同じ会社が同じ期間に、総人員53万108人について調べた結果だ。こちらは平均以下の体重がある者の死亡率を現わしているが*、その成績は太り過ぎた者よりもはるかによい。
* Fisher, Ibid., p. 219.

貧乏物語12-6-2

この表を見ると、最もやせた人、つまり平均より25から45ポンドも体重の少ない者でも、30代を越して40歳以上になると、全て平均よりも死亡率が少なくなる。

表を掲げたついでに、すぐ引き続いて述べたい事があるが、余白がなくなったから残りは明日に回す。
(12月21日)

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訳注

※)原文「一ポンドは約百二十匁」。

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